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札幌地方裁判所室蘭支部 昭和34年(ワ)78号 判決

原告 国

国代理人 宇佐美初男 外二名

被告 服部暢与 外一名

主文

(原告の主たる請求について)

一、被告株式会社東光商会は、別紙目録記載の第二ないし第四物件に対し昭和三二年三月六日売買予約を原因として同年三月八日受附第三四六号をもつてなした各所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続をせよ。

二、原告その余の請求を棄却する。

(原告の予備的請求について)

被告服部暢与と訴外服部光男との間に昭和三三年一一月二九日別紙目録記載の第一物件についてなした譲渡契約は、これを取消す。

被告服部暢与は、右服部光男に対し右物件につき所有権移転登記手続をせよ。

(訴訟費用)

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

一、原告の申立

1  主たる請求の趣旨

別紙書面の「主たる請求の趣旨」のとおり。

2  予備的請求の趣旨

別紙書面の「予備的請求の趣旨」のとおり。

二、被告らの申立

原告の請求はいづれも棄却する。

三、原告主張の主たる請求原因

別紙書面の「主たる請求原因」のとおり。

四、原告主張の予備的請求原因

別紙書面の「予備的請求原因」のとおり。

五、被告らの主張

1  主たる請求原因に対する答弁

(イ)  原告主張一項のうち、原告主張の仮登記がなされていることは認めるがその余の事実は争う。

(ロ)  同二項のうち、被告服部が原告主張の日訴外矢元光男と結婚したことは認めるがその余の事実は争う。

(ハ)  同三項の事実は争う。

2  主たる請求原因に対する抗弁

仮に原告主張の如く強制執行を免れるための手段として本件物件の仮装譲渡がなされたものとすれば本訴請求は公序良俗違反行為を原因としてした給付の返還を請求することであるから民法第七〇八条本文の趣旨に従い許されない。

3  予備的請求原因に対する答弁

(イ)  原告主張一、二項の事実中、原告主張の仮登記が存することは認め、その余は争う。

(ロ)  同三項は知らない。

(ハ)  同四項については、被告服部は知らない。被告会社としては原告主張の如き訴訟が提起されたことは認め、その余は争う。

(ニ)  同五項については、被告服部は第一物件が被告服部名義に家屋台帳に登載されていることは認め、その余は争う。被告会社は(イ)のうち、原告主張の仮登記の存することを認め、その余は争う。

4  主たる請求、予備的請求を通じての反対主張

(イ)  被告服部の主張

被告服部は、昭和三一年頃訴外伊達煉炭有限会社から有珠郡伊達町字山下町五四番地の地上に存する同会社所有の建物を借受け千菊という名で飲食店を経営していたが、昭和三三年四月取毀移築の目的で右建物を同会社から買受け、更に同会社からその所有地である同町字山下町七一番地の八の土地を借受けてその地上に、第一物件の建物を自己の費用で建築して所有しているものである。

(ロ) 被告会社の主張

被告会社は、債権者森下繁債務者北原大次郎間の不動産競売事件で債務者北原大次郎所有の第二ないし第四物件の競売期日において上記物件を競落しようとしたが該期日に、競落人の資格証明に要する被告会社の登記簿抄本を提出することができなかつたので便宜その場に居合わせた訴外矢元光男の名義を借りて、その名義のもとに競落し昭和三一年一一月二〇日競落許可決定を得たものである。しかしながら競落代金は被告会社において支出したものであり、光男は実質的にはなんらの権利を有するものでなかつたのであるから本来ならば速かに被告会社に名義を移転すべきであつたが、被告会社としては他に売却処分する予定であつたので、移転登記の費用を省く意味と光男の勝手な処分を封じておくため、原告主張の如き仮登記を経由したものにすぎない。

六、証拠〈省略〉

理由

第一、主たる請求について

一、請求原因一項の事実は次のように全部これを認めることができる。

(1)  甲第一号証、甲第一一号証、甲第一二号証の一、二、甲第一三号証(以上何れも成立に争はない)と証人斎藤敬親の証言によると、第一物件の家屋は、訴外矢元光男が建築主となつて有珠郡伊達町山下町七一番地地上に昭和三三年六月九日建築確認を受けた上、同年一一月二九日工事を完了して同日工事完了検査を終えた上該建物を被告服部に譲渡し、同被告において昭和三四年四月四日家屋建築申告書を提出した上、同日札幌法務局伊達出張所備付の家屋台帳に登載されたことを認めることができる。

右事実によると反証のない限り右建物は、矢元光男が建築所有するものであるところ昭和三三年一一月二九日これを被告服部に譲渡したものと推認できる。そして右推認を覆すに足る証拠は次記(2) のとおり存しない。

(2)  被告服部は「該建物を自己において建築所有するものであると主張するが、この点に副う証人矢元光男、同矢元照雄の各証言は、前掲各証拠並びに証人宮内昇治郎、同大上譲、同木谷弥造、同道川見与の各証言、被告会社代表者高野敏郎に対する本人訊問の結果並びに同結果により成立を認めうる甲第一四号証、証人宮内の証言により成立の認めうる甲第一六号証に対比して信用できない。

(3)  甲第二ないし第四号証(以上何れも登記簿であり成立に争わない)によると、第二ないし第四物件の各土地は、もと訴外北原大次郎の所有のところ訴外森下繁の競売申立により競売に付された結果訴外矢元光男が昭和三一年一一月二〇日競落許可決定を受け、その頃右代金を納付し同三二年三月六日これを原因とする所有権移転登記が経由され、更に被告会社を権利者として、同年三月六日売買予約を原因として同月八日受附の各所有権移転請求権保全の仮登記が経由されていることが認められる。(上叙仮登記がなされていることについては争がない。)

右事実によると反証のない限り右各土地は何れも矢元光男が競落により所有権を取得した後、被告会社この間に昭和三二年三月六日売買予約を締結し、これが予約に基き被告会社において所有権移転請求権保全の仮登記を経由したものと推認することができる。そして右推認を覆すに足る証拠は次記(4) のとおり存しない。

(4)被告会社は右競落は便宜上矢元光男の名義を借りてなされたものであるが、実質的には被告会社が競落代金を支弁したものであつて被告会社の所有に属するものであり、右仮登記は移転登記の費用を省く意味で光男の勝手な処分を封じておくためになされたものにすぎない旨主張するが、証人矢元光男の証言中この点に副う部分は前掲甲第二ないし第四号証、成立に争のない甲第一〇号証、前出甲第一四号証、証人佐藤喜志の証言、被告会社代表者高野敏郎に対する本人訊問の結果に対比して信用できないし、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

二、矢元光男と被告服部との間の前記第一物件の譲渡行為は、原告主張のように矢元光男が被告服部と通じてなした虚偽の意思表示又は、矢元光男の真意に非ざる意思表示によるものとは次の理由により認め難い。

(1)  右主張を直接証明しうる証拠は存しない。そこでそれを推測する手がかりとなる外形的事実を認定することとする。

(イ) 前出甲第一四号証、成立に争のない甲第一五号証、証人宮内昇治郎、同大上譲、同木谷弥造、同道川見与の各証言、被告会社代表者高野敏郎の供述によれば、被告服部はもと洞爺温泉の料理屋兼置屋「三楽」の酌婦をし、何ら資産を有しないのみかかえつて同店に一四・五万円の借金すら負担していたが、たまたま矢元光男にみそめられ同人の世話で昭和二五年頃光男の関係する真狩村所在某訴外会社の事務員となつて以来俗にいわゆる二号的存在として生活して来たが、昭和三四年一二月二四日光男と正式に結婚するに至つたものであることを認めることができ、(上記日時に結婚した点は争がない)

(ロ) 成立に争のない甲第五号証の一、二によれば原告は、矢元光男から被告服部に対する右譲渡行為がなされる以前よりすでに光男に対し、札幌地方裁判所室蘭支部昭和二六年(ワ)第一六七号違約金請求事件の確定判決(昭和三〇年七月一三日確定)による金六三二九、八五〇円及びこれに対する昭和二五年九月一日から完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金債権を有していることが認められる。(もつとも成立に争のない甲第六号証によると、これに対しては強制執行の結果昭和三〇年六月一一日違約金元金に対し金四八、〇〇二円の内入弁済を受けた事実が認められる。)

(ハ) 右甲第六号証、成立に争のない甲第七号証の一、二、甲第八、第九号証に証人佐藤喜志の証言によると、原告においては、光男に対する右債権の取立てのため、度々交渉を重ね弁済方を督促するとともに右債権を保全するため、予備的請求原因四の(イ)、(ロ)項に掲ぐる事項を主張してそれぞれ伊達簡易裁判所に詐害行為取消の訴(同裁判所昭和三一年(ハ)第三三号及び同第三四号)を提起し、その後も前記債権の支払方について強く交渉を進めていた事実が認められる。

(ニ) 右甲第六号証、甲第九号証、前出甲第一〇号証と証人矢元光男の証言によれば、昭和三二年及び昭和三三年当時光男は本件不動産を除いては他にみるべき財産を有していなかつたことを認めることができる。

(2)  以上の諸事実を綜合すれば、少くとも矢元光男においては、債権者を害することを知りながら敢て第一物件家屋を被告服部に譲渡したものであることを認めることはできるし、更には光男の真意によらない仮装行為ではないかという疑も生ずるけれども、被告服部と光男とはその後正式に結婚していることを考えると光男において債権者を害する意図を有していたとはいえ経験則上本当に譲渡する意思で譲渡したものと考えられる余地もないとはいえないので前掲の諸事実をもつて光男の真意によらざる行為であると断ずるにはいささかちゆうちよせざるをえない次第である。

三、矢元光男と被告会社との間の第二ないし第四物件の売買予約は原告主張のように光男と被告会社と通じてなした虚偽の意思表示であると認める。その根拠は次のとおりである。

(1)証拠によつて次の諸事実を認めることができる。

(イ) 前記(ロ)、(ハ)、(ニ)の諸事実

(ロ) 前出甲第一〇号証、甲第一四号証と証人宮内昇治郎の証言、被告会社代表者高野敏郎に対する本人尋問の結果を綜合すると、被告会社と矢元光男の次のような関係が認められる。

矢元光男は表面上は、被告会社とは何ら関係がないことになつているが然し同人は当時被告会社の代表取締役の印鑑を保管し、自由に同会社名義で手形を振出し、会社の業務はすべて同人の指示によつて運営され、被告会社の代表取締役その他の役員は名目上の存在にすぎず、会社の実体は矢元光勇個人の経営とさして異なるところはないという密接不可分の関係にあつたこと。(証人矢元光男の証言中右認定に反する部分は信用できない。)

(ハ) 本件全証拠を精査するも、登記簿上の記載(甲第二ないし第四号証)を除いては、光男と被告会社との間に第二ないし第四物件について真実売買予約が結ばれたものと認むべき証拠はなく、又右契約を締結し且その仮登記を経由すべき吾人を納得せしむるに足る必要性も原因も遂に見出しえないこと。

四、以上の次第であるから第一物件の譲渡行為は仮装行為として、これを無効とすべき根拠がないから、無効であることを前提とする原告の被告服部に対する主たる請求は失当であるが、第二ないし第四物件の売買予約は通謀虚偽表示であるから無効である。さて、原告は前記債権を保全するため債務者たる光男に代位し被告会社に対し右各物件の所有権に基き、前記各仮登記の抹消を求めるというのである。

五、ところで被告会社は、右の請求は公序良俗違反行為を原因としてなされた給付の返還を請求するものであるから民法第七〇八条本文の趣旨に従い許されない旨主張する。

しかし、本訴は物権的請求権たる所有権に基く返還請求権であつて、債権的請求権たる不当利得返還請求権とはその原因を異にし、民法第七〇八条は、不当利得返還請求に適用される規定であつて所有権に基く返還請求権の行使の場合には適用がないものと解するので被告会社の右主張は採りえない。

六、原告は矢元光男に対して前記の債権を有するものであるから、右債権を保全するため第二ないし第四物件の所有権を有する光男に代位して本件仮登記の抹消を求めうるものというべきであり、原告の右の請求は理由がある。

第二、予備的請求について

一、矢元光男が第一物件を建築後、家屋台帳に登録される昭和三四年四月四日以前の昭和三三年一一月二九日に被告服部にこれを譲渡したこと、原告が光男に対しその当時その主張の如き債権を有し、光男はみるべき財産を有していなかつたことは前記認定のとおりであり、光男が債権者を害することを知りながら敢て第一物件家屋を被告服部に譲渡したものであることは前記第一の二において認定説示したところである。

二、受益者たる被告服部は詐害の点につき善意である旨を主張立証しない。

三、果して然らば昭和三三年一一月二九日になされた光男と被告服部間の第一物件についての譲渡行為は、一般債権の但保を減殺しその債権者を詐害する行為というべくこの行為を取消して右物件の所有権移転登記の抹消を求める原告の予備的請求は理由がある。

第三、むすび

よつて、本訴請求中、被告服部に対する主たる請求は理由がないから棄却するが、予備的請求は理由があるからこれを認容すべく、被告会社に対する主たる請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 水谷富茂人)

別紙書面

主たる請求の趣旨

一、被告服部暢与は、有珠郡伊達町字山下町五四番地服部光男に対し、別紙目録記載の第一物件につき所有権移転登記手続をせよ。

二、被告株式会社東光商会は、別紙目録記載の第二乃至第四物件に対し、昭和三十二年三月六日売買予約を原因として同年三月八日受付第三四六号をもつて為した所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする

との裁判を求める。

予備的請求の趣旨

一、被告服部暢与と訴外服部光男との間に昭和三十三年十一月二十九日別紙目録記載の第一物件について為した譲渡契約は、これを取消す。

被告服部暢与は、右訴外人に右物件の所有権移転登記手続をせよ。

二、被告株式会社東光商会と訴外服部光男との間に昭和三十二年三月六日別紙目録記載の第二乃至第四物件について為した売買予約は、これを取消す。

被告株式会社東光商会は、右各物件に対し、昭和三十二年三月六日売買予約を原因として同年三月八日受付第三四六号をもつて為した所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

主たる請求の請求原因

一、別紙目録記載の不動産(以下本件不動産という)は、もと訴外有珠郡伊達町字山下町五十四番地訴外服部光男(旧姓矢元。以下便宜矢元光男の旧姓名を用いる。)の所有に属していたが、右訴外人は本件不動産中第一物件については、これを建築後、家屋台帳に登録せられる昭和三十四年四月四日以前の昭和三十三年十一月二十九日に被告服部暢与に譲渡し、第二乃至第四物件については、被告株式会社東光商会との間に昭和三十二年三月六日売買予約を締結し、これが予約にもとずき所有権移転請求権保全の仮登記を札幌法務局伊達出張所昭和三十二年三月八日受付第三四六号をもつて為した。

二、然し訴外人と右各被告らとの間の前記法律行為は次に述べるように、いずれもそれは通謀虚偽表示によるものであるから無効である。

(イ) 被告服部と矢元光男との関係 被告服部暢与は、もと洞爺温泉の置屋「三楽」の女中をし、何ら資産を有しないのみか、かえつて同店に十四、五万円の借金すら負担していたものである。ところがたまたまそれが矢元光男にみそめられ、同人の世話で昭和二十五年頃同店の女中から矢元の関係する真狩村の会社の事務員となり以後被告は、同村においては世間より矢元の妻といわれる程の関係を続け専ら矢元より経済的援助を受け、時には矢元と同棲を続け、俗にいわゆる二号的存在として生活して来たが遂に昭和三十四年十二月二十四日矢元と結婚するに至つたものである。

(ロ) 被告株式会社東光商会と矢元光男との関係 矢元光男は形式上は被告会社とは何ら関係がないことになつているが、然し矢元は、常時被告会社の代表取締役の印鑑を保管し、自由に会社名義で手形を振出し、会社の業務は、すべて同人の指示によつて運営され、しかも役員並びに従業員の任免についても同人が勝手にこれを行い、会社の社員及び従業員は矢元の意思に反して行動すると直ちに会社との関係をたち切られるため、これらの者はことごとく矢元のいうがままに行動せざるを得ないという実情にあつた。そして他方会社には、株主名簿の備えもなければ株券の発行もなされず、株主総会なども殆んど開かれることはなく、従つてそれは会社とはいつても、名目のみでその実体は矢元個人の経営と何ら異るところはないのであつて、いはば矢元光男は株式会社東光商会という看板の下に同人個人の事業を行つていたものである。

三、右に述べた矢元光男と各被告らとの関係に徴してみるならば、各被告らと矢元光男との間には前叙のような法律行為を為すべき当時何ら実質的な理由はなかつたものである。然るに矢元光男はあえて被告服部暢与との間に第一物件について譲渡契約をし、又第二乃至第四物件について被告株式会社東光商会との間に売買予約を為すに至つたものであるが、このことは、後記予備的請求原因に述べた如く、(第三項)矢元光男が原告に多額の債務を負担していた結果、同人としてはこれが債権者たる原告よりの右各物件に対する強制執行の為されることを懸念し、該強制執行をまぬがれるための手段として各被告との間に通謀して前記の法律行為を仮装したものであつて何れも無効である。

仮りに通謀してなされたものでないとするも、被告服部暢与、同東光商会は、矢元光男の前記行為が真意でないことを知つておつたものであり、又知ることを得たもので右行為は民法第九三条但書によつて無効である。従つて矢元光男が各被告らとの間において本件係争物件に対して為した各法律行為は無効であるから本件不動産は依然矢元光男に属する。そして債権者たる原告は前記債権を保全するため債務者たる矢元に代位し、その所有権に基き主たる請求の趣旨どおり裁判を求めるものである。

尚矢元光男は本訴提起後、前叙のとおり被告服部暢与と結婚し、妻の氏を称するに至つたものである。

予備的請求の請求原因

一、本件不動産は、もと訴外有珠郡伊達町字山下町五十四番地矢元光男の所有に属していたものである。

二、右矢元光男は、本件不動産中

(イ) 第一物件については、これを建築後、家屋台帳に登録せられる昭和三十四年四月四日以前の昭和三十三年十一月二十九日に被告服部暢与に譲渡し、

(ロ) 第二乃至第四物件については、被告株式会社東光商会との間に昭和三十二年三月六日売買予約を締結し、これが予約にもとずき所有権移転請求権保全の仮登記を札幌法務局伊達出張所昭和三十二年三月八日受付第三四六号をもつて為した。

三、原告は、右矢元光男と各被告らとの間に前記法律行為が為される以前よりすでに矢元光男に対し、札幌地方裁判所室蘭支部昭和二十六年(ワ)第一六七号違約金請求事件の確定判決による金六百三十二万九千八百五十円及びこれに対する昭和二十五年九月一日から完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金債権(もつともこれに対しては強制執行の結果金四万八千二円の内入弁済を得た。)を有していた。

四、而して原告は、矢元光男に対する右債権の取立てのため、従来同人に対し度々交渉を重ねて来たが、同人はその間言語を左右にし、弁済の誠意を示さないのみか、かえつて自己の財産に対する強制執行を恐れ

(イ) 有珠郡伊達町字南稀府七十四番地に所在する家屋番号第二十番の二、木造柾葺平屋建居宅、建坪十五坪の建物を取得するや、昭和二十七年二月十八日売買を原因としてこれが取得名義を同人の妻である矢元キヨ名義に札幌法務局伊達出張所昭和二十七年二月二十日受付第一八四号をもつて登記し、

(ロ) 或いは弁済の資力がないのにもかかわらず、右矢元光男は有珠郡伊達町字山下町一番地に所在する家屋番号三番の三、木造柾葺平屋建工場建坪八坪の建物を昭和三十年一月十日本件の被告たる株式会社東光商会に売渡し、札幌法務局伊達出張所昭和三十年三月十八日受付第三六二号をもつてこれが登記を為した。

よつて原告としては、右矢元光男の行為に対し、債権保全のため、それぞれ伊達簡易裁判所に詐害行為取消の訴(同裁判所昭和三十一年(ハ)第三三号及び同第三四号)等を提起すると共に、其の後においても、矢元光男に対し、第三項記載の債権の支払方法等につき交渉を進めていた。

前叙述の如く原告の矢元光男に対する債権取立が依然として強行であることを知る矢元は、あらゆる財産を自己名義にすることを恐れると共に、自己名義にしても、直ちに担保権を設定したり自己の勢力下にある被告等に其の所有名義なり、権利者名義を移転できるようにする為、最も便利な仮登記制度を悪用し、被告等名義にすると共に、更に担保権を設定する等あらゆる法律的技術を活用しているものである。

五、現に、本件も矢元光男は、原告の有する債権を害する為予備的請求原因第一項(ロ)記載の如く、

(イ) 昭和三十二年三月六日に、前記のとおり伊達簡易裁判所昭和三十一年(ハ)第三三号詐害行為取消事件の被告と同一人で情を知つた被告株式会社東光商会との間に第二乃至第四物件について売買予約を為して、これが請求権保全の仮登記をし、

(ロ) 又第一物件についても右訴訟係属中である昭和三十三年十一月二十九日自己の勢力下にある被告服部暢与に予備的請求原因第二項(イ)記載の如くこれが物件を譲渡したものであるが、特にこれが第一物件の譲渡については、本来ならば、右物件は、その建築の経緯よりするならば、一旦矢元の所有名義で家屋台帳に登録せらるべきものであるが、然し同人としては、もし斯様な月並な手続を踏んで自己名義に登録をし、右にもとずいて登記簿にも一旦同人名義に所有権保存の登記を為し、而して後、被告服部に所有権移転の登記をするならば、原告の登記簿閲覧等によつて右行為が、又詐害行為として取消されることを懸念し、これがいんぺいの手段として、該物件を未登録のままで情を知つた被告服部に譲渡し、而して右物件の建築申告は、譲受人たる右被告服部に為さしめ、もつて家屋台帳は勿論、登記簿上において一切矢元光男名義を現わさず、極めて巧妙な手段を弄し、単に家屋台帳或いは登記簿等の閲覧によつては容易に右詐害行為が発見できないような処置を構じているものである。

従つて単に右の手段並びに従来の前記矢元光男の所為に徴してみるも本件不動産に対して為した法律行為については、右矢元に詐害の意思あることは極めて明白である。それ故原告は右矢元と各被告との間に為した前記法律行為の取消を求め、予備的請求の趣旨記載の如き裁判を求めるため本訴に及んだ次第である。

別紙目録〈省略〉

更正決定

原告 国

被告 服部暢与 外一名

右当事者間の昭和三四年(ワ)第七八号詐害行為取消等請求事件について、昭和三十六年五月十二日言渡の判決中に明白な誤謬を発見したので左の通り更正する。

主文

一、別紙目録中第二物件の不動産中

「有珠郡伊達町字南有珠百六十六番地一、原野四畝七歩」

とあるを

「有珠郡伊達町字南有珠百五十六番地、一、原野四畝七歩」

二、判決理由中第二の三のうち「所有権移転登記の抹消を求める」

とあるを

「所有権移転登記を求める」

とそれぞれ更正する。

(裁判官 水谷富茂人)

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